第十一段:神無月の比

原文

神無月の比、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里にたづねる入る事侍りしに、遥かなる苔の細道をふみわけて、心細くすみなしたる庵あり。木の葉に埋もるる懸樋の雫ならでは、露おとなふものなし。閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがにすむ人のあればなるべし。

かくてもあられけるよと、あはれに見るほどに、かなたの庭に大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。

現代語訳(適当です)

神無月(旧暦10月)の頃に、栗栖野というところを過ぎて、ある山里に人を訪ねて行ったことがありましたが、延々と続く苔の細道を踏み分けていくと、はかなげに住んでいる庵があった。木の葉に埋もれる筧(竹などで水を引く樋)の雫ぐらいしか、訪れるものもない。供え物を置く棚に、菊や紅葉などを折って散らしているのは、やはり住む人がいるからだろう。

いい感じだな、と感慨深く見ていたが、彼方の庭に大きなみかんの木があって、枝もたわわになっていたが、周りを厳重に囲っていたのは、少し興味が冷めて、この木が無かったら、と思ったことだ。

感想

今回も、兼好さんの枯れ物趣味?で物事を判断した文章です。

何度も人にみかんを取られたんでしょう、柵を作るぐらいは許してあげてよ、と思いますが、確かに家の感じとそぐわなかったんでしょうね。

 

「画竜点睛を欠く」「惜しい!」という感覚が、第十一段の肝でしょう。

 

私の仕事で「画竜点睛を欠く」「惜しい」と思うのは、中小企業に対する国の補助制度でしょうか。

中小企業が、僕たちのようなIT専門家を無料または格安で派遣してもらえる制度として、過去には「ミラサポ」、現在は「中小企業デジタル化応援隊」「中小企業119」という制度があります。

 

中小企業、特に小規模事業者からのITの相談は、「そもそも何が課題なのか」という部分から始まることも多いので、IT化をする前段階の部分に結構時間がかかります。

実際に、お金を生む、効果を出すためのITの導入については、企業側が投資をしてくれれば良いのですが、この前段階の部分はまだ効果が出ないため、この相談の部分を国が補助してくれるのは、とてもありがたいです。

なので、依頼があれば喜んで対応をしますが、そもそもこの制度自体があまり知られていないという惜しい面があります。

 

また、こういった国の補助制度については、悪用する人が必ずいるので、悪さをしていないか、報告書を書くのが結構大変なのです。

「喜んで対応する」と書いておきながら、実際に依頼が来たら「ちょっと面倒くさいなー」と思ってしまうのも事実です。

そういった面倒くささがあるので、間に入る商工会議所等もめんどくさがって、この制度を利用していないという面もあります。

 

専門家の要件をもう少し厳しくしてもらって、予算を広報費を厚めにしたら、もっと良い制度になるのになー、と思っている常日頃です。

 

あとは、「小規模事業者持続化補助金」が、販路開拓を主にしているのも惜しいと思います。

実際に小規模事業者の課題として「販路開拓」が一番大きな課題になっているので、販路開拓がメインになっているのは分かるのですが、今、国の政策としてDXを掲げているので、デジタル化についても持続化補助金の対象として欲しいです。

デジタル化については、「IT導入補助金」という補助金があるのですが、その会社の業務にバッチリ合うソフトがあれば良いのですが、小規模事業者はニッチな業種も多いので、IT導入補助金に適当なソフトが無いことも多いです。

 

まぁ半分愚痴のようになりましたが、世の中には画竜点睛を欠く、惜しいと思うことは結構あるものです。

 

そういえば、20年ほど前にインドに行ったことがあり、タージマハルは実はあまり期待していなかったのですが、いざ実際に見たら圧倒されました。

門をくぐると、真っ白な建物が圧倒的存在感で現れて、しばし立ち尽くしてしまいました。

入口で入場券を買うのに、お釣りをごまかされて、「まただまされたよ」と立腹していたのも忘れてしまったという。

 

とはいえ、お釣りをごまかされたのも今でも覚えていて、インドには二度と行かないと思っているのも事実なので、これが私の画竜点睛を欠く体験ですかね^^