仕事でITを使っていく際の心構え(IT教習所1)

IT教習所の第一回目は、「仕事でITを使っていく際の心構え」です。

IT、デジタルの世界は、基本的には「こういった機能があることを知っているか、知らないか」「こういった技術が使えるか、使えないか」という、知識とテクニックの世界です。

ただ、私がこれまでにITに関する知識やテクニックを教えてきた経験上、心理的な壁があって、その壁を越えられない、という方を多く見てきましたので、第一回目は心構え(というと大げさですが)について書いてみます。

この連載は、自動車教習所のような「教習所」をイメージしていますので、「何も考えずに、必要だから勉強する」ということで、本当は良いと思っています。ITについて、必要だから当たり前に学習する、という方は、この記事は読み飛ばしていただいて大丈夫です。

まずは本業を身に着ける

何のために仕事でITを使うのか?

というと、「より良く仕事をするため」です。

では、「より良く仕事をする」とはどういうことでしょう。

仕事の質はQCD

「より良い仕事」というのは、お客様に喜ばれる仕事です。

お客様が何に喜ぶか、顧客満足度を上げるためには「QCD」を上げる、と昔から言われています。

製造業以外の業種では、PQDと言う場合も多いです。QCDの内、CostがPrice(価格)に置き換わっただけです。

Quality(品質)は、高い方が良いですよね。

Cost(コスト)は、安い方が良いです。

Delivery(納期)は、短い方が良いです。

「安くて旨くて、注文したらすぐに出てくる店」は、絶対に繁盛します。

もちろん、安すぎても詐欺じゃないかと思われたりとか、会社に利益を残さないと従業員が疲弊するとか、いろいろありますが、一般的には「すべての仕事はQCDに通じる」と言って過言ではありません。

「何のために仕事でITを使うのか?」という問いに戻ると、「あなたの仕事の質を上げる、コストパフォーマンスを良くする、仕事を早くする」ためです。

「品質を上げるためにはどうしたら良いのか?」「コストを下げるためにはどうしたら良いのか?」「仕事を早くするためにはどうしたら良いのか?」という目的がないと、ITのことを勉強する必要はありません。

QCDを高める具体的な着目点を知るためには、まずはあなたの本業、会社の仕事のことを良く知る必要があります。

実際には、ITも含めて技術の向上と、仕事への理解は並行して上昇していくものですが、本業が飯のタネですので、そこを忘れないようにしましょう。

中小企業の常として、いろいろできるようになると、よく分からない業務が回ってくる、という側面もあります。その場合でも、「何のためにやっているのか」ということが分かっていないと、断りにくくなってしまいますので、自己防衛のためにも仕事への理解が必要です。

「より良くする」ためには欲が必要

「より良く仕事をする」ためには、「より良く仕事をしよう」という、そもそもの欲が必要です。

「品質を良くして、お客様に喜んでもらおう」

「コストを削減して、会社の利益率を高めよう」

「仕事を早くして、早く帰って私生活を充実させよう」

「お客様に喜んでもらって、たくさん注文を取って、最終的には自分の給料も増やそう」

でも、何でも良いです。

私の場合は、ITを使うことで納期が削減されるのが面白くて、割とゲーム感覚でITに詳しくなっていった感じですが、何でも良いので「今より良くする」という欲を持ちましょう。

「今と同じで給料が多少減っても良いので楽をしたい」

「QCDを高めても、お客が得するだけで、自分は損する」

とか思っていると、何事もやる気になりません。

なお、QCDを高めるのは顧客満足度を高めるためですが、ほとんどの場合、自分にとっても良いことばかりです。

お客様に喜んでもらって、会社の業績が良くなると、自分の自尊心も高まります。

納期が早くなると、余分な仕事が減って、早く帰れるようになって、自分の時間も増えます。

自分の想いで人生は変わりますので、ぜひ欲を持って、新しい技術を身に着けていきましょう。

私はあまり好きではない考え方ですが、「人に迷惑をかけない」ためにITを身に着ける、という考え方もあります。高速道路で60kmで走ると周りに迷惑をかけるように、周りのスピードに合わせる必要もあります。

ITは現代の読み書きそろばん

昔から生きていくために必要な能力として、「読み書きそろばん」ということが言われています。

現代の読み書きそろばんは、ITを行って行うことが多くなってきています。

メールやインターネットの記事を読むことも多いでしょう。

手書きで書くことは減って、パソコンやスマホに入力することも多いでしょう。

特にそろばん、計算においては、手で計算することは減って、パソコン・システムに計算させることがほとんどです。

「より良く仕事をする」ための、基本的な能力がITと言っても過言ではありません。

仕事の質を上げるために、まずは基本的なITの技術を身につけましょう。

なお、現実の仕事では四則計算(足し算、引き算、掛け算、割り算)がほとんどで、量が多いので頭がこんがらがります。

大量の計算ができるように、ITを使うということです。

ITを哲学的に説明してみる

「日本はITの活用が遅れている」と言われている背景に、哲学的な問題もあるのかな、と思うところもありますので、これからITの技術を勉強していくにあたって、ちょっと哲学的なことも書いてみます。

技術は演繹法

考え方のプロセスとして、「帰納法」と「演繹法」があるのはご存じでしょうか。

帰納法というのは、いくつかの出来事から仮説を作って検証していく方法です。

対して演繹法は、原理原則、法則から検証していく方法です。

(帰納法と演繹法について詳しく知りたい方は、いろいろ調べてみてください)

ITの世界は、「このインプットをすると、このアウトプットが出る」という原理(関数)を知って、その通りにすると、期待通りの結果が得られます。

ITの技術を向上させるということは、この原理原則をつかむ、ということでもあります。

パソコンを使って仕事をしていても、原理原則を知らないと、ただの入力マシンにしかすぎません。原理原則を知らずして、ITの技術力を向上させることはできません。

逆に原理原則さえ分かってしまえば、「やったことないけど、たぶんできる」ということが増えてきます。

日本的な八百万の神々がそれぞれの理屈を持って、みんな違ってみんないい、的な考え方じゃなくて、一神教的な原理原則、経典があって、その通りにやるイメージです。

(完全にイメージですが)

対して、現実の仕事をシステム化していくときには、帰納法的な考え方も求められるので、なかなかハードルが高いですが、まず「技術は演繹法、なので原理原則を知るのが大事」ということを覚えていただいたらな、と思います。

なので、「分からないところだけピンポイントで調べる」という考え方だと、ほとんど上達しません。まずは原理原則をある程度身につけて、ピンポイントで調べるのはその後です。

基本的に性悪説にたった方が良い

人間に対する考え方として、「性善説」と「性悪説」があります。

基本的に、日本社会では性善説が理想とされていると思います。

財布を落としても交番で見つかる、とか、酔っぱらって道端で寝ていても安全、とか、性善説で成り立っていることが多いです。

事件や事故があった際は、本来善なる人間が期待される行動をとらなかった、と、当事者が非難されることが多いですよね。

ITの世界は、ほとんどの場合、性悪説で考えた方が良いです。その方がITの習得が早くなります。

  • 人間はミスをするものだ
  • 人間は怠けようとするものだ
  • 人間は人をだまそうとするものだ

と捉えておきましょう。

人生観に関わりますので、強制はできませんが、ITの世界においては、基本的に性悪説です。

  • 人間がミスをするのが当たり前なので、システムでミスが起こらないようにする
  • 人間はルールを守らないことが多いので、システムでルールが徹底されるようにする
  • 迷惑メール(ほとんどが詐欺)に対応するため、セキュリティ対策をする

意図的ではなくても、人間はミスをします。(私も、過去にいろいろ失敗をしています)

ミスをしても謝らない(気づかれなければOK)という人もたくさんいます。

意図的ではなくても、ルールを破る人がいます。(そんなルール知らない、ということも多い・・・徹底させるのもITツールがあった方が良いです)

セキュリティに関しては、言わずもがなです。

人間はいい加減なものである、と考えた方がITに関する気づきが多くなりますし、仕事がしやすいことも多いはずです。

(まぁそればかりだとしんどいので、人を信じることも大切ですが)

相手は機械

ITは、基本的にはパソコン(スマホやタブレットも広い意味ではパソコン)に対する技術です。

パソコンは、言わずもがなですが機械です。

人間相手ですと、微妙な表現等でもコミュニケーションが取れますし、表情や声のトーンで理解してくれることもありますが、パソコンは機械なので、決まった方法で、正確にインプット(入力)をしないと、期待通りの結果を得ることはできません。

その分、指示したことには文句も言わず、その通りに動いてくれます。

最近は、「生成AI」という曖昧な指示でも何らかの結果を返してくれるようになっていますが、AIも質問が曖昧だと回答も思うような返事をしてくれません。

標準化・ルール化

先ほど書いたように、機械は決まった方法通りにしか動いてくれません。

こと細かに毎回指示をするのは大変なので、まず仕事を標準化・ルール化しておいて、標準ルールに則ったシステム化を事前にしておくことが多くなります。

臨機応変な対応は苦手ですが、その分、標準化しておけば人間の何倍もの働きをしてくれます。

割り切って標準化、パターン化ができる部分は、標準化していきましょう。

例えるのであれば、100km離れた場所に走って行こうと思う人はいないと思います。電車なり、車なりを使いますよね。

その際に、駅じゃないところに電車を停めてほしいとか、道路じゃないところを走っていくとか、普通はそんなことは考えません。社会の仕組みとして割り切って、標準化されたルールに則って、利益を享受しています。

それと同じことで、まずは標準化されたルールに則って仕組みを作って、その仕組みに乗っかって成果を得る姿勢が大事になってきます。

小は大を兼ねる

人間の感覚では、「大は小を兼ねる」の方が普通です。

小さい箱には大きいモノは入りません。大量のモノを小分けにすることはできても、少量のモノを大量にすることはできません。

ITの世界は逆で、小さい単位のデータを大きい単位に集計することはできても、もともと大きい単位のデータを小さい単位に分けることはできません。

例えば、日本の人口が1憶2千万人というデータだけしかないと、都道府県ごとの人口を知ることはできません。

ですが、都道府県ごとの人口データがあれば、集計して日本の総人口を集計することはできます。

もっと言うと、各自治体(○○市、○○町等)の人口データがあれば、都道府県ごとの集計も、日本の総人口の集計ができます。

よって、基本的にはできるだけ小さな単位でデータを持っておく方が、後々の使い勝手が良くなります。

計算はパソコンがやってくれるので、あまり面倒なことはありません。

(その分、集計のテクニックやデータの結合等のテクニックが必要になることは、最初に言及しておきます)

「小は大を兼ねる」と考えておいて、まず間違いありません。

安全に注意する

自動車に乗るのと同じように、安全は大事です。

自動車と違って、ITの世界では、何かミスをしたとしても、人が死ぬようなことはありません。その点は安心してください。

ITの世界での安全は、①データやシステムを壊す ②情報漏洩 の2点だと思います。

テスト環境を作る

本番の環境で失敗をすると、データやシステムが壊れてしまいます。

試しに勉強する、といった時は、業務に影響が出ないよう、テスト環境を新しく作ってから行いましょう。

小まめにセーブする、バックアップを作る

ITの世界では人が死ぬことはほぼ無いので、テスト環境さえ作れば何でも試しにやってみる、という姿勢で良いと思います。

ただ、一回試しにやってみてうまく行かなかった際に、テスト前に戻れない(不可逆性)ことも良くありますので、小まめにセーブしたり、バックアップを取ったりして、前の環境に戻れるようにしておく方が良いです。

とはいえ、一度は痛い目にあうことになると思いますが・・・

何時間か作業したのが保存されていなくて、夜中に吠えたことも、今となっては良い経験ではありますが。

情報漏洩

間違ってデータをメール送信したりすると、重大な情報漏洩につながることもあります。

個人名を扱うデータの際は、ダミーデータを使ったりと、情報がうっかり漏れてしまわないように気を付けておきましょう。

ここでも、性悪説の考え方で、「人間はミスをするものだ」という前提に立って、事前に大事に至らないように構えておくことが重要です。

終わりに

ここまでいろいろ書きましたが、まぁそういうもんなんだな、と思って読んでいただけると嬉しいです。

先ほども書きましたが、ITを勉強しているうえでは人が死ぬようなことはほとんどありません。

いくら原理原則が大事、といっても、手を動かさないと分からないこともたくさんありますので、トライアルエラーで学習していってくださいね。